「覚悟」という言葉に集約する試み
かつて柳井正さんの「一勝九敗」で『頭のいい人は資料を作るのは立派だが実際にやる人は少ない』と書いてらっしゃったのを覚えている。当時は会社員時代の自分と重ねて「確かにそうだなぁ」と烏滸がましくも納得した。
今、いくつかのプロジェクトに関わり、いろいろな人と関わって仕事をしていると「実現」する力の多寡が顕著に感じられることが多い。実現する力が少ないのは、
- 口だけ達者で何もしない人
- 黙々と与えられたタスクをこなす人
- 自分で決断せずに、誰かに決めてもらおうとする人
- 想いが先行して、具体策は人任せの人
もちろん実現できる人はいる。でも、自分ができているかといえばできていない。なので、物事を成し遂げるにはどうしたら良いかを考える。
実現するのに大事なことは、以下だと思う。
- ターゲット・目標の具体化
- プロセス分解
- スケジューリング
- 進捗管理/補正
dryな話をすると上記だ。しかしここでは敢えてwetな話をする。
実現するには「覚悟」を決める必要がある。
夢や理想を語るだけなら、それほど「覚悟」はいらない。しかし、本当に実現するためにはターゲットを見失わず、逃げ道を作らない「覚悟」が必ず要る。
人は行動しているうちに目標を見失うことが多い。行動している途中で実現対象とは別の感情的な欲求が顔を出す。それが心理的リアクタンスを発生し本能的に感情行動を煽動する。渦中の本人にはもうどうすることもできない。自分がその感情に突き動かされていることすら気づけなくなる。覚悟が不足して目標を見失う例をいくつか列記する。
これを実現したい!
この人にこれをやってもらいたい!
でもこの人に嫌われたくない
こんな言い方したらバカだと思われるかな
明日から話し辛くなるは怖いな、、、現状の関係は維持したいし
かっこ悪いと思われないためには潮時だな、
この人に気に入られるためにはどうしたらいい
「自分がされたら嫌なこと」はしちゃダメだ
変なお願いしない方がいいよね、適当なこと言ってごまかそう
この人が喜んでくれた → よかった自分のプレゼンスは維持できた
—————!?
自分のプレゼンスを維持するために実現する対象よりも“この人”の中に作り上げた(と思い込んでいる)自分像を守るのに必死になる。実現よりも「嫌われたくない」「失敗したくない」が先行し「覚悟」が決まらないので、腹を括って依頼しにきた別の勇者に“この人”は取られてしまい、その勇者の下で成果を上げることになる(可能性が高い)。
恋愛下手にありがちなケース。【優しすぎて押しが弱いので、相手もこちらの意図が掴めず結局何がしたかったのかわからない。覚悟を決めたもっと積極的(強引)な他の同性に全部持って行かれてしまう】タイプ。
これを回避するのは「覚悟」。自分がどう思われようと歯牙にもかけず、群の中の自分のプレゼンスが急落しようとも、「実現」するという一点に集中する。あらゆることを、人の顔色を伺わずに全て自分で決める姿勢、NNTのブラック・スワンであることが鍵となる。
これを実現するにはこの人を説得しなくてはいけない
なかなか、言うことを聞いてくれないな
すごい反論だ、でも俺の方がもっと知ってるぞ
これはこうなんだよ、こうじゃなきゃおかしいだろ
なんだと?調子に乗りやがって、お前何様だよ!
お前、俺を下に見てるな。ヘッドはお前じゃない、俺だよ
絶対に負けないからな、徹底的に論駁してやる
相手が諦めたぞ。。どうだ俺の勝ちだ、
この人とは一緒に仕事したくねーわ → どーだ俺に逆らうやつはこうなるんだ、みんな言うこと聞けよ
—————!?
自分がコミュニティのトップで居続けたいと思う心理が「実現」よりも優先される。「実現」したいことよりも、コミュニティのなかでの自分の地位を維持することに集中してしまっている。実現のための発言力を持つトップの座を守りたいがための迷走である。
実現するためにはコンバージョン(改心)とパージ(追放)を使い分けなくてはならない。「この人」が実現に向けた判断ができる人であれば、腹を括ってコンバージョンし「この人」を尊重する。「この人」が別の目的に盲信しているのであれば、「実現」の障壁になるので「覚悟」を決めてパージしなくてはならない。コンバージョンとパージは中途半端な気持ちで使うと最悪の自体を引き起こす。
中途半端なコンバージョンはどちらか(または双方)に痼を残し、関係を悪くする。「あの時のあれさぁ、やっぱり納得してないんだよね!」みたいな話になると「実現」の道は遠くなる。
中途半端なパージは、パージの途中に(嫌われたくない)情が出て話がまとまらない。パージ後も話を整理しておかないと、同じ課題を蒸し返したりネガティブキャンペーンによって進行を阻まれたりして、本来考える必要がなかった対策を講じる時間を生むことになる。
また、コンバージョンについて大事なことは、相手が自分よりも「覚悟」が決まっている時は、ヘッドを譲ることが懸命であるということだ。明らかに自分よりも知見と人望を得ていた場合、その時は自分がやるよりも相手の方が「実現」に近い位置にいるということを受け入れる必要がある。覚悟の敗北は実現を優先する時、速やかに相手にヘッドを譲るべきなのだ。
よし!これを作るぞ!絶対成果を上げてやる!
あれ、でもこれってどうやるんだろう、、勉強しなきゃ
Aも勉強した方がいいけど、Bも要るよな、Cも使えるかもしれないぞ
Aはむつかしいな。。。集中力が保てない、眠くなってきた
Bは、、、、、誰かに頼もう。そのためにはお金が要るぞ
Cは面白いなこれは楽しい
Cはわかってきたけど、これって最初の目標に合ってるのかな?
でももうこれだけやってきちゃったし、Cでお金稼ごう
あー、Cの案件で儲かった → ある程度好きな暮らしができるぞ、よかった!遊びに行こー
—————!?
実現するために辛い道があるのは避けられない。楽しくないことや注力できないことに直面した時の選択が大事だ。自分で走りきる「覚悟」を決めるのか、“片手落ち”になっても時間の最適化のために外部リソースに頼る「覚悟」を決めるのか、どちらにしてもゴールは見失わないことが前提である。
実現するには、これとこれと、、、これをやらなきゃ
これには交渉が必要だな
交渉相手は、AとBだから準備をしよう
やることいっぱいだな、これは誰かがやってくれるだろう
これも誰かやってくれるはずだ、書面化するのって面倒だな
早く誰かやれよー。これじゃ交渉進められないよ
準備できたら誰かが言いに来るだろ、それまで動かないでいいや
早く言いに来いよ、進まねえじゃねえか
—————1?
自分が周りを動かすという気概と、全体を見る視野が欠けるとこのようなことになる。自分が何を実現しようとしているのか。“そのために”どうするのか。これを見つめる覚悟が欠落してしまった状態。誰かが動くのを待つのであれば、その時、自分は従業員であり自由選択を全て放棄しているということ「覚悟の敗北」を認識すべきである。
はい!わかりました。これをやればいいんですね。
これをやるには、こうして、ああして、整理して
ん?なんかプロジェクト止まってる?
でも僕はこれをやれって言われたから、最後までやり通すぞ
何かあったら情報がくるだろう
なかなか勉強になるな。よし!まだまだ頑張ろう
お、形になってきた。
けど、え?このタスクって。。。。。もう要らないの?
聞いてないよ
—————!?
人に言われたことをやるのは、自分で考えて決めるよりも容易い。失敗はフォローしてもらえるし、責任も取らなくて良い。何か問題があれば「自分は誰々の指示に従った」と言うことができる。この時、どんなに困難なタスクをやり遂げたとしても、実現に向けた視野が不足していた、または、見るべき現実から目を背けたという意味で「覚悟」が不足している。タスク自体がターゲットから外れていた場合、その大半は「実現」に対して意味を成さない。意味を成したとしてもただの偶然だ。
ダラダラしちゃダメだし、スケジュールをしっかりたてるぞ
よしよし!ギリギリだけどオンタイム
、、ちょっと遅れてきたけど、まだ数日なら巻き返せる
あれ、予定通りに行かないものだな
もう無理か、リスケジュールしよう
よし、よしよし!いけるぞ
あれ、このタスク想定よりも全然重い。。。。。
え?そんなことも必要なの?、そのスケジュールは取れないよ
いやー。もう巻き返しは無理だ、→諦めよう
—————!?
実現において、その進捗の是非を問うためにスケジュールを立てることは重要だが、前例がない場合スジュールが遅延することは常に想定に入れておかなければならない。最初から冗長なスケジュールを提示することは余白を取りすぎており「覚悟」が決まっていない現れ。逆に非現実的なスケジュールに盲進するのも遅延状況を受け入れられない「覚悟」不足。つまり可能な最短スケジュールを立てて自分を追い込むこと。スケジュールの遅延が明らかになったら「覚悟」を決めてリスケジュールすること、両方から目を背けてはいけない。
以上、様々に列記したが、全て何かを実現しようとして行動を起こしているにも関わらず「覚悟」の不足によって“感情・本能の暴走”を止められなかったり、“災い”や“面倒”を避けようとする方向に逃げてしまい結局何も成立しない。「実現できない」結果になってしまっている。
覚悟は態度や言動、思考の方向性から、周囲に伝わるということも認識しておきたい。
実現のためのチームが編成された時、責任者よりも一担当者に事実上の主導権が移るケースがある。
全員対等で始めたプロジェクトが時が経つにつれて、自然とリーダー格の人間が顕著に現れたるする場合もある。
これらは覚悟(と信頼)のレベルの現れであることが多い。「この人に任せておけば大丈夫」「この人ならなんとかしてくれる」「この人に相談すると物事が前に進む」。そう思わせることができるのは過去の実績である信頼もそうだが、それよりも、今目の前にある「覚悟」なのである。結果として強い覚悟が決まるほど「実現」に作用する権限は強化される。
実現のためには周囲の人の力が必要になることは多い。周囲の人を動かすのは上記の通り「覚悟」も重要だが、「覚悟」で圧迫するのは得策ではない。お金やニンジンによって、つながる契約も最善ではない。周囲の人に「やりたい」と思わせることが、大切である。チームのモチベーションコントロール、「このプロジェクトは楽しい」「絶対に実現させたい」「もっと良いものを作ろう」という感情を持たせるための取り組みも手を抜いてはいけない。間違っても雰囲気の悪い現場を作り上げ、叱咤を繰り返したり、価値観を押し付けてはいけない。それは必要に応じて感情を滅私する「覚悟」ができていない現れである。
専門用語を使い過ぎたり、「スッキリ」とか「いい感じに」「わかりやすく」など抽象度の高い言葉で指示を出すこと、「○○なだけでいい」といった過度な楽天的判断することも避けるべきだ。
専門用語の使いすぎは、自分を大きく見せたい虚栄を抑えられない「覚悟」不足。
抽象度の高い言葉は、具体化するコストからの逃避。
過度な楽天的判断は自分の不安を無根拠に安心させるための無責任な発言である。